大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和35年(ワ)4340号 判決 1968年7月12日

主文

一、原告に対し、

(一)(1)、被告宮本太吉は別紙土地目録記載(三)の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)および(ホ)ならびに(四)記載の土地について、同法務局昭和二八年一一月一二日受付第二〇六九五号をもつてなした所有権取得登記の抹消登記手続をなし、且、右(三)の(イ)の土地より別紙建物目録記載(ハ)の家屋を収去し、右(三)の(イ)(ハ)および(ニ)の各土地を明渡せ。

(2)、被告吉田繁次郎は別紙土地目録記載(三)の(ロ)の土地について、同法務局同三八年四月九日受付第八七六五号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、同地上より別紙建物目録記載(二)の家屋を収去して右土地を明渡し、且、別紙土地目録記載(三)の(ニ)の土地について同法務局同三八年四月九日受付第八七六六号をもつてなされた所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続をせよ。

(3)、被告村井重雄は別紙土地目録記載(三)の(ホ)の土地について同法務局同三八年四月九日受付第八七六四号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右地上より別紙建物目録記載(ホ)の家屋を収去して右土地を明渡せ。

(4)、被告金谷喜三郎は別紙土地目録記載(四)の土地について、同法務局同三四年一一月一九日受付第三〇三七九号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右土地を明渡せ。

(5)、被告浅野寅吉は別紙土地目録記載(八)の(イ)および(ロ)の土地について、被告浅野憲治は同目録記載(九)の(イ)、(ロ)および(ハ)の土地について、同法務局同二九年八月二日受付第一六五九一号をもつてそれぞれなされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(6)、被告藤井俊彦、同英彦は、(八)の(イ)の土地について同法務局同三八年一二月一六日受付第三三〇四六号をもつて、(九)の(ロ)の土地について同法務局同年同月同日受付第三三〇四七号をもつてそれぞれなされた各持分二分の一の各所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右各土地を明渡せ。

(7)、被告青木寿賀三は、(八)の(ロ)の土地について同法務局同三八年一二月一六日受付第三三〇四八号をもつて、(九)の(ハ)の土地について同法務局同年同月同日受付第三三〇四九号をもつて、それぞれなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右各土地を明渡せ。

(8)、被告安田塗料株式会社は(九)の(イ)の土地について同法務局同三八年一二月一六日受付第三三〇五号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右土地を明渡せ。

(二)、前(一)項掲記の各被告は別表の各被告欄中「当裁判所認定額」欄記載の金額をそれぞれ支払え。

二、原告その余の請求はすべて棄却する。

三、訴訟費用は原告と被告福田寅吉、同西村栄三郎、同西村花香、同白井茂太郎、同竹内友次郎、同阪野徳三郎、同上田三五郎の間に生じた分は原告の、その余の被告らとの間に生じた分は被告らの各負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

(原告)

一、原告に対し

(1)、被告福田寅治は、別紙土地目録記載(一)の(イ)、(ロ)および(二)の土地(以下(一)の(イ)、(ロ)、(二)の土地という)について、大阪法務局昭和二五年一一月一三日受付第一七四四九号をもつてなした各所有権移転登記の抹消登記手続をなし、且、同二六年一月一日より同二八年一二月三一日まで年額坪(三・三平方米、以下同じ)当り二円、同二九年一月一日より同三三年一二月三一日までは年額坪当り五円、同三四年一月一日より同三五年八月七日までは年額坪当り一〇円の割合による金員を支払え。

(2)、被告西村栄三郎、同花香は(一)の(イ)および(ロ)の土地について、同法務局同三五年八月八日受付第二二三二七号をもつてなされた各持分二分の一の所有権移転登記の抹消登記手続をなし、且、同三五年八月八日より同年一二月三一日までは年額坪当り一〇円、同三六年一月一日より同三八年八月二二日まで年額坪当り一、二九〇円の割合による金員を連帯して支払え。

(3)、被告西村花香は(一)の(イ)の土地について同法務局同三八年九月一一日受付第二三四八七号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をなし、且、同土地を明渡し、同年八月二三日より右明渡済まで年額坪当り金一、二九〇円の割合による金員を支払え。

(4)、被告西村栄三郎は(一)の(ロ)の土地について同法務局同三八年九月一一日受付第二三四八八号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をなし、且、別紙建物目録記載(イ)の家屋(以下(イ)の家屋という。)を収去して右土地を明渡し、且、同年八月二三日より右明渡済まで年額坪当り一、二九〇円の割合による金員を支払え。

(5)、被告白井茂太郎は(二)の土地について、同法務局同三五年八月八日受付第二二三二八号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をなし、且、同地上より別紙建物目録記載(ロ)の家屋(以下(ロ)の家屋という)を収去して右土地を明渡し、同年八月八日より同三六年一二月三一日までは年額坪当り一〇円、同三七年一月一日より右明渡済まで年額坪当り一、七七〇円の割合による金員を支払え。

(6)、被告宮本太吉は別紙土地目録記載(三)の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)および(ホ)ならびに(四)記載の土地(以下(三)の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)および(四)の土地という)について、同法務局同二八年一一月一二日受付第二〇六九五号をもつてなした所有権取得登記の抹消登記手続をなし、且、右(三)の(イ)の土地より別紙建物目録記載(ハ)の家屋(以下(ハ)の家屋という)を収去し、右(三)の(イ)(ハ)および(ニ)の各土地を明渡し、右(三)の(イ)(ハ)および(ニ)の各土地については同二九年一月一日より同三三年一二月三一日までは年額坪当り五円、同三四年一月一日より同三六年一二月三一日までは同じく一〇円、同三七年一月一日より右明渡済まで同じく一、七七〇円の割合による金員を、同(三)の(ロ)の土地について、同二九年一月一日より同三三年一二月三一日まで同じく五円、同三四年一月一日より同三八年四月八日まで同じく一〇円の割合による金員を、同(三)の(ホ)の土地について同二九年一月一日より同三三年一二月三一日まで同じく五円、同三四年一月一日より同三七年一二月三一日まで同じく一〇円、同三八年一月一日より同年四月八日まで同じく二、四〇〇円の割合による金員を、同(四)の土地について、同二九年一月一日より同三三年一二月三一日まで同じく五円、同三四年一月一日より同年一一月一八日まで同じく一〇円の割合による金員を各支払え。

(7)、被告吉田繁次郎は別紙土地目録記載(三)の(ロ)の土地について、同法務局同三八年四月九日受付第八七六五号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、同地上より別紙建物目録記載(ニ)の家屋(以下(ニ)の家屋という)を収去して右土地を明渡し、同三八年四月九日より同三九年一二月三一日まで年額坪当り一〇円、同四〇年一月一日より右明渡済まで同じく二、四〇〇円の割合による金員を支払い、且、別紙土地目録記載(三)の(ニ)の土地について同法務局同三八年四月九日受付第八七六六号をもつてなされた所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をせよ。

(8)、被告村井重雄は別紙土地目録記載(三)の(ホ)の土地について同法務局同三八年四月九日受付第八七六四号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右地上より別紙建物目録記載(ホ)の家屋(以下(ホ)の家屋という)を収去して右土地を明渡し、且、同三八年四月九日より右明渡済まで年額坪当り二、四〇〇円の割合の金員を支払え。

(9)、被告金谷喜三郎は別紙土地目録記載(四)の土地について、同法務局同三四年一一月一九日受付第三〇三七九号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右土地を明渡し、且、同三四年一一月一九日より右明渡済まで年額坪当り一〇円の割合による金員を支払え。

(10)、被告竹内友次郎は別紙土地目録記載(五)の土地(以下(五)の土地という)について同法務局同二五年一一月一三日受付第一七四四九号をもつて、同目録記載(六)の土地(以下(六)の土地という)について同法務局同二五年八月二四日受付第一三一一三号をもつてそれぞれなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、且、右各土地を明渡し、右各土地について同二六年一月一日より同二八年一二月三一日までは年額坪当り二円、同二九年一月一日より同三三年一二月三一日までは同じく五円、同三四年一月一日より右明渡済まで同じく一〇円の割合による金員を支払え。

(11)、被告阪野徳三郎は別紙土地目録記載(七)の土地(以下(七)の土地という)について同法務局同二五年一一月一三日受付第一七四四九号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続ならびに同法務局同三五年七月一一日受付第一九六三〇号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、且、右土地を明渡し、同三四年四月一日より右明渡済まで年額坪当り一〇円の割合の金員を支払え。

(12)、被告浅野寅吉は別紙土地目録記載(八)の(イ)および(ロ)の土地(以下(八)の(イ)、(ロ)の土地という)について、被告浅野憲治は同目録記載(九)の(イ)、(ロ)および(ハ)の土地(以下(九)の(イ)、(ロ)、(ハ)という)について同法務局同二九年八月二日受付第一六五九一号をもつてそれぞれなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右各土地につき同三〇年一月一日より同三三年一二月三一日まで年額坪当り五円、同三四年一月一日より同三八年一二月一五日まで同じく一〇円の割合による金員をそれぞれ支払え。

(13)、被告藤井俊彦、同英彦は、(八)の(イ)の土地について同法務局同三八年一二月一六日受付第三三〇四六号をもつて、(九)の(ロ)の土地について同法務局同年同月同日受付第三三〇四七号をもつてそれぞれなされた各持分二分の一の各所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右各土地を明渡し、且、右各土地につき同年同月同日より右明渡済まで年額坪当り一〇円の割合による金員を連帯して支払え。

(14)、被告青木寿賀三は、(八)の(ロ)の土地について同法務局同三八年一二月一六日受付第三三〇四八号をもつて、(九)の(ハ)の土地について同法務局同年同月同日受付第三三〇四九号をもつてそれぞれなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右各土地を明渡し、且、同年同月同日より右明渡済まで年額坪当り一〇円の割合による金員を支払え。

(15)、被告安田塗料株式会社は(九)の(イ)の土地について同法務局同三八年一二月一六日受付第三三〇五号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右土地を明渡し、且、同年同月同日より右明渡済まで年額坪当り一〇円の割合による金員を支払え。

(16)、被告上田三五郎は別紙土地目録記載(一〇)および(一一)の土地について同法務局同二五年八月二四日受付第一三一一三号をもつてなされた各所有権移転登記の抹消登記手続をなし、右各土地を明渡し、且、同二六年一月一日より同二八年一二月三一日まで年額坪当り二円、同二九年一月一日より同三三年一二月三一日まで同じく五円、同三四年一月一日より右明渡済まで同じく一〇円の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告等の各負担とする。

第二、被告等

一、原告の請求はすべて棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第三、当事者双方の主張

(原告の請求原因)

(1)、別紙土地目録記載(一)ないし(二)の各土地(以下本件(一)ないし(二)の土地という)は、昭和一一年一一月二七日設立された大阪市城東土地区画整理組合によつて都市計画法第一二条に基づく土地区画整理が施行され、その整理完了によつて昭和一八年五月頃原告が旧所有地の換地として現実に換地交付を受けた原告の所有地である。(登記のその後の変動は、別紙土地目録の分筆の経過および添付の表のとおり)

(2)、ところが、訴外大阪市城東区農業委員会は昭和二三年四月二八日本件各土地につき自作農創設特別措置法(以下自創法という)第三条第一項第一号該当の農地として買収の時期を同年七月二日とする農地買収計画を樹立し、同年四月二八日公告し、同年五月七日迄一〇日間右関係書類を縦覧に供した。

しかる後前記委員会は売渡計画に従い別紙土地目録添付の表(以下土地目録の表という)中「売渡処分による変動」欄記載のとおり売渡処分(分筆の経過記載日時に)をなしたため、本件各土地には請求の趣旨記載の各登記(仮登記)がなされ、且、被告等はそれぞれ別紙土地占有ならびに損害金一覧表(以下一覧表という)中「占有土地」欄記載の土地について、同一覧表中「占有公示期間」欄記載の間占有をなすべき正権限のないことを知りながら、又は知り得べきに拘らず過失によりこれを知らず占有を継続し、西村栄三郎、白井、宮本、吉田および村井の各被告はそれぞれ請求の趣旨記載の家屋(別紙建物目録参照)をその土地(被告宮本は(三)の(イ))上に建築所有するに至つた。(但し、被告阪野徳三郎は昭和三四年三月一七日亡阪野種吉を相続し、その債務と占有を承継した。)

(3)、しかしながら、右買収計画は本件土地が自創法第五条第五号に規定する買収除外の該当地であるにも拘らず之を看過したものであつたので、(第一審たる大阪地方裁判所では原告の右買収計画取消請求は棄却されたものの)大阪高等裁判所昭和三四年(ネ)第七三七号、同七四八号併合事件の判決により取消され、右判決に対する上告事件たる最高裁判所昭和三九年(行ツ)第三号事件において昭和四〇年一一月五日上告棄却の判決言渡があり、ここに右の違法なる買収計画の取消判決が確定したのである。右取消の効果は右行政処分の当初にまで遡及するものであり、かかる無効なる買収計画に基く事後の処分は悉く無効たるを免れず、この一連の行政処分がすべて無効である以上、原告の本件土地に対する所有権にはいささかの影響もなく、もとより、被告等は原告に対してその所有権並に占有の正権原を対抗し得る筋合ではない。

そこで、原告は本件土地所有権に基いて、各被告に対してそれぞれ請求の趣旨記載の各登記(被告吉田につき所有権移転請求権保全の仮登記)の抹消登記手続を求めると共に、現在権原なく占有している西村栄三郎、同花香、白井、宮本、吉田、村井、金谷、竹内、阪野、藤井俊彦、同英彦、青木、安田塗料株式会社および上田の各被告に対して、それぞれ別紙一覧表中「占有土地」欄記載の各土地の明渡(西村栄三郎、白井、宮本、吉田および村井の各被告に対してはそれぞれ前記各家屋を収去して明渡すこと)を求め、且つ全被告に対して前記不法占拠による損害金として各占有土地につき各占有期間に応じて地代相当の金員(別紙一覧表中「原告主張の損害金の額」)を請求する。

(被告等の請求原因に対する答弁ならびに主張)

(答弁)

(1)(被告安田塗料株式会社の関係)本件(九)の(イ)の土地が原告の所有地であつたことおよび原告主張の買収計画、買収処分、売渡処分が順次行なわれたことは認める。

(2)(安田塗料株式会社を除く被告等の関係)本件各土地がいずれも原告の所有地であつたこと、原告主張の買収計画、買収処分、売渡処分が順次行なわれ、爾後、請求の趣旨記載の各登記がそれぞれなされたこと、各土地の分筆経過、所有者の変動関係又各土地の占有関係ならびに建物の所有関係がいずれも原告の主張とおりであること、および原告主張のごとく右買収計画が確定判決により取消されたことは認めるが、本件各土地の占有について、原告主張の悪意ないしは過失のあつたことならびに損害金の額は争う。

(被告等の抗弁)

(1)、被告福田寅治、同西村栄三郎、同西村花香、同白井茂太郎、同竹内友次郎、同阪野徳三郎、同上田三五郎の各被告の関係については取得時効が完成している。

別紙土地目録の表の「売渡処分による変動」中買受人欄記載の者(被告福田、同阪野の先代阪野種吉、被告竹内、同上田)は、前記のとおり、それぞれ同表「売渡処分による変動」欄記載の本件各土地の売渡を受け(売渡通知書の交付を受けた日は、いずれも昭和二四年四月二日)自ら所有の意思を以つてそれぞれ占有するに至つたものであるが、右占有の開始にあたつて、右買受人には前記各物件がそれぞれ自己の所有に属するに至つたと信ずることにつき過失はなかつた。即ち、右各土地が自創法第五条第五号に該当する土地か否かという判定は非常に困難なことであるから(現に第一審判決では該当しないと解釈しておる。)行政庁の判断(処分)を信じて、その効果として所有権を取得したものと判断をして自主占有を始めたもので、この点につき前記買受人に過失を認めることは出来ない。

従つて、その後一〇年間右各土地の占有を継続しているから、昭和三四年四月二日をもつてその時効期間が完了するので、前記買受人(但し、亡阪野種吉については阪野徳三郎が承継)は昭和二四年四月二日に遡つて完全な所有権を取得する。従つて、その後の右各土地の承継人たる被告西村栄三郎、同西村花香、同白井茂太郎においてもそれぞれ完全にその所有権を取得するものである。だからして原告はその各請求の前提となる所有権を否定される結果となり、原告の前記各被告に対するその余の請求は当然理由なく失当である。

(2)、仮に前記((1))被告らに対して取得時効完成(所有権取得)が認められないとしても、同被告らとの間に関しても、またその他の被告ら(安田塗料株式会社を除く)との間には本件各土地につきそれぞれ土地賃貸借契約が存在する。

本件土地は昭和一二年区画整理実施後不耕作地として放置されていたが、昭和一五、六年頃から付近在住の者が勝手に耕作を開始した。昭和一八年に至り被告竹内が原告から右土地の管理を委頼され、その際、勝手に耕作している者を立退かせて確かな者に小作料をとつて耕作させることを委任した。そこで右竹内はその趣旨に従つて小作料を玄米反当り二斗ないし二斗五升と定めて次のとおり耕作させた。(但し、右竹内の小作料は右管理費と相殺)

(イ)天王田町三丁目二九番地 田 二反五畝六歩(別紙土地目録の表中「買収計画樹立当時」欄参照)

このうち  一反一畝を   福田寅吉

一反四畝六歩を 宮本太吉

(ロ)同所三二番地 田一反一二歩

このうち  四畝一二歩を 竹内友次郎

残余を    阪野種吉

(ハ)同所三四番地 田一反五畝一歩 竹内友次郎

(ニ)同所三九番地 田 四畝四歩 上田三五郎

同所四〇番地 田 九畝歩  上田三五郎

(ホ)同所四一番地 田一反一畝一八歩 宮本太吉

(但し、(ロ)については、当初四畝一二歩の部分を宮本昌澄が、その余を竹内が耕作していたが、昭和二一年三月右宮本が耕作を中止したので前記のとおり改めて耕作を続けた。)

右小作関係はその後変更することなく、本件買収処分がなされるまで存続したのであるから、本件買収計画が取消され、買収処分、売渡処分が遡及して効力を失うとしても、一旦混同によつて消滅した小作関係は復活して依然として存続していることになるから、適法に解除することなく(しかも農業委員会の許可を経ないで)明渡および(右のとおり被告等は権原にもとずき正当に本件各土地を占有しているものであるから)損害金の支払を求める本訴請求は全て失当である。

(抗弁に対する答弁ならびに原告の再抗弁)

(答弁)

(1)、抗弁事実(1)のうち、各売渡通知書交付の日が、昭和二四年四月二日であること、および買受人(被告福田、同竹内、同阪野の先代阪野種吉、被告上田)がそれぞれ前記各物件が自己の所有に属するに至つたと信ずることにつき過失はなかつたとの主張は争う。その余の事実は全て認める。

尚、取得時効の起算日は、本件各物件について夫々、登記簿上前記各買受人の所有名義に変更された日(一覧表の「占有公示期間」欄中、右各買受人の、各土地についての取得登記の日参照)とすべきである。けだし、第三者たる原告にとつては登記の伴つた占有によつて初めて占有取得者を確認し得るものであるからである。

(2)、同(2)のうち、原告主張の賃貸借契約の成立は否認する。昭和一八年当時から敗戦後の混乱期にかけての期間は未曾有の食糧危機であつたため、休閑地であればこれを誰れ彼れなく無断利用していた。本件各土地も換地引渡以来雑草の生えるがままに放置していたのであるが、敗戦前後の期間被告主張のもの達が、それぞれ耕作していたが、原告は同胞愛からこれを黙過していたにすぎない。被告竹内から二年程の間に四斗づつ計二回米を貰つた事実はあるが、それは所謂「志」であつて、決して対価として授受したものではない。又、仮りに右により黙示の合意による使用貸借契約が成立したとしても、その使用目的は前記のとおり食糧危機による休閑地利用であるから、その食糧危機の終つた昭和二五、六年当時本件各使用貸借契約はいずれもその使用目的を達成して終了した。

(時効の抗弁に対する再抗弁)

(1)、福田、竹内、(宮本、浅野寅吉、同憲治)および上田の各被告はいずれも前記旧区画整理組合の事務長等使用人として整理事業の目的遂行に参与していた地元非農家の者であつて、前記のごとく原告が同胞愛から休閑地の無断使用を敢えて黙過して来た連中であつた。これらの者は所謂農地解放に便乗して一儲けしようと相謀り虚偽の賃借小作の申告を為し、且つ種々策動して地元農地委員会をして違法な売渡処分をなさしめたものである。

右の如く、被告福田、同竹内、同上田、同阪野の先代阪野種吉らの買受人は単に国が買収した農地を、その買収処分に瑕疵があることを知らず売渡を受けたと言うものではなく、以上の如く積極的に違法な行政処分がなされる様工作し、とりわけ、本件土地は非常な湿地帯であつて、且つ周辺土地の急激な発展に伴い買収当時既に農耕には不適当な土地であつたことは知悉していた。右のように買受人等はいずれも本件買収計画に取消事由(本件各土地が自創法第五条第五号により買収除外の指定をなすべき農地であつたこと)が存在することを充分承知していたから、その占有の開始に当つては、自己が本件各物件の完全な所有者であるとは信じていなかつた(悪意)ものである。従つて、その時効期間は二〇年であるから、未だ時効は完成したとはいえず、被告等の時効の抗弁は失当である。

(2)、原告は、昭和二三年七月二一日本件買収計画の取消の訴を提起し、昭和四〇年一一月五日上告審の判決を受けた。その間は本件土地占有者たる被告等に対しては所有権を対抗出来ず、該判決の確定によつて初めて被告等に物上請求権等の行使が法律上可能になつたのである。即ち、被告等主張の取得時効の完成時には、原告にとつては右時効を中断する方法がなく、いわば法的故障が存在したため、該中断行為をすることができなかつたものであり、時効停止事由を制限的なものと解する合理的な理由はないから、右故障の事由は民法第一五八条乃至第一六一条において例示の時効の停止事由と同等の評価を受くべきものである。

従つて、右故障の止みたる時(即ち買収処分取消の判決が確定した昭和四〇年一一月五日)から一定期間(本件に最も近い故障の場合に関する民法第一六〇条を類推適用すれば六ケ月、同一六一条なれば二週間)取得時効の完成が猶予せられるものと解すべく、しかも右故障の止みたる時には本訴を提起し、且つ係属していたものであるから、被告等が本件各土地を時効取得する謂われはない。

(再抗弁に対する答弁=安田塗料株式会社を除く被告等)

(1)、再抗弁中(1)の事実は否認する。(但し被告竹内等が旧区画整理組合の事務長等使用人であつたとの主張は不知。)

(2)、原告主張の買収計画取消の訴提起の日および右訴に対する上告審の判決の日は認めるが、法律上の主張は争う。

(証拠関係)(省略)

別紙 土地占有ならびに損害金一覧表

<省略>

<省略>

<省略>

別紙

土地目録

(一) (イ)大阪市城東区天王田町三丁目二九番地

一、宅地 二一四、九〇平方メートル(六五坪〇一)

(ロ)同所二九番地の八

一、宅地 二一四、八四平方メートル(六四坪九九)

(二)    同所二九番地の三

一、宅地 六六一、一五平方メートル(二〇〇坪)

(三) (イ)同所二九番地の二

一、宅地 三七〇、四一平方メートル(一一二坪〇五)

(ロ)同所二九番地の四

一、宅地  九九、一七平方メートル(三〇坪)

(ハ)同所二九番地の五

一、宅地  七九、六〇平方メートル(二四坪〇八)

(ニ)同所二九番地の六

一、宅地  九九、一七平方メートル(三〇坪)

(ホ)同所二九番地の七

一、宅地  五五、七六平方メートル(一六坪八七)

(四)    同所二九番地の一

一、田  七〇四、一三平方メートル(七畝三歩)

(五)    同所三二番地

一、田  四三六、三六平方メートル(四畝一二歩)

(六)    同所三四番地

一、田一、四九〇、九〇平方メートル(一反五畝一歩)

(七)    同所三二番地の一

一、田  五九五、〇四平方メートル(六畝歩)

(八) (イ)同所四一番地の一

一、田  二七四、三八平方メートル(二畝二三歩)

(ロ)同所四一番地の五

一、田  二八〇、九九平方メートル(二畝二五歩)

(九) (イ)同所四一番地の二

一、田  三八〇、一六平方メートル(三畝二五歩)

(ロ)同所四一番地の三

一、田  一〇九、〇九平方メートル(一畝〇三歩)

(ハ)同所四一番地の四

一、田  一〇五、七八平方メートル(一畝〇二歩)

(一〇)   同所三九番地

一、田  四〇九、九一平方メートル(四畝四歩)

(一一)   同所四〇番地

一、田  八九二、五六平方メートル(九畝歩)

右各土地の分筆の経過

一、本件(一)の(イ)(ロ)、(二)、(三)の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)および(四)の各土地は本件買収計画樹立当時(昭和二三年四月二七日)は、

大阪市城東区天王田町三丁目二九番地

一、田  二反五畝六歩

として一筆の土地であつたが、昭和二五年一〇月二五日農地売渡処分により次のとおり分筆された。

<1>同所同番地(所有名義人福田寅吉)

一、田  一反一畝歩

<2>同所同番地の一(所有名義人宮本太吉)

一、田  一反四畝六歩

更に右<1>の土地は昭和三五年八月八日受付第二二三二七号をもつて

(一)    同所同番地(西村栄三郎、西村花香持分二分の一の共有名義)

一、田  四畝一〇歩

(二)    同所同番地の三(所有名義人白井茂太郎)

一、田  六畝二〇歩

とに、右<2>の土地は

(三)    同所同番地の二(所有名義人宮本太吉)

一、田  七畝三歩

(四)    同所同番地の一(所有名義人金谷喜三郎)

一、田  七畝三歩

とにそれぞれ分割され、更に右(一)の土地は、昭和三八年九月一一日地目変更により

同所同番地

一、宅地 一三〇坪〇〇

となり、同日分筆により、

(イ)同所同番地(所有名義人西村花香)

一、宅地  六五坪〇一………(一)の(イ)

(ロ)同所同番地の八(所有名義人西村栄三郎)

一、宅地  六四坪九九………(一)の(ロ)

となり、同じく(二)の土地は地目変更により

同所同番地の三

一、宅地 二〇〇坪………(二)

となり、同(三)の土地は昭和三七年八月七日地目変更により

同所同番地の二

一、宅地 二一三坪

となり、同年一〇月一九日分筆により

(1) 同所同番地の二

一、宅地 一四二坪〇五

(2) 同所同番地の四(所有名義人吉田繁次郎)

一、宅地  三〇坪〇〇………(三)の(ロ)

(3) 同所同番地の五

一、宅地  四〇坪九五

となり、更に昭和三八年四月三日分筆により、右(1)の土地は

同所同番地の二

一、宅地 一一二坪〇五………(三)の(イ)

同所同番地の六

一、宅地  三〇坪〇〇………(三)の(ニ)

とに、右(3)の土地は

同所同番地の五

一、宅地  二四坪〇八………(三)の(ハ)

同所同番地の七(所有名義人村井重雄)

一、宅地  一六坪八七………(三)の(ホ)

とにそれぞれ分筆された。

二、本件(五)、(七)の各土地は、買収計画樹立当時は、

同所三二番地

一、田  一反一二歩

として一筆の土地であつたが、農地売渡処分により、昭和二五年一〇月二五日

同所同番地(所有名義人竹内友次郎)

一、田   四畝一二歩………(五)

同所同番地の一(所有名義人坂野徳三郎)

一、田   六畝歩……………(七)

とに分割された。

三、本件(八)の(イ)(ロ)、(九)の(イ)(ロ)(ハ)の各土地は、買収計画当時は

同所四一番地

一、田 一反一畝一八歩

として一筆の土地であつたが、農地売渡処分により、昭和二九年六月三日

(1)同所同番地の一(所有名義人浅野寅吉)

一、田   五畝一八歩

(2)同所同番地の二(所有名義人浅野憲治)

一、田   六畝歩

とに分筆された。更に右(1)の土地は、昭和三八年九月四日

(イ)同所同番地の一(所有名義人藤井俊彦、同英彦)

一、田   二畝二三歩………(八)の(イ)

(ロ)同所同番地の五(所有名義人青木寿賀三)

一、田   二畝二五歩………(八)の(ロ)

とに、(2)の土地は、同日、

(イ)同所同番地の二(所有名義人安田塗料株式会社)

一、田   三畝二五歩………(九)の(イ)

(ロ)同所同番地の三(所有名義人藤井俊彦、同英彦)

一、田   一畝〇三歩………(九)の(ロ)

(ハ)同所同番地の四(所有名義人青木寿賀三)

一、田   一畝〇二歩………(九)の(ハ)

別紙

建物目録

(イ) 大阪市城東区天王田町三丁目二九番地 地上 西村栄三郎所有

家屋番号同所二九番地の一

鉄骨造スレート茸平屋建工場

建坪 一七〇、四七平方メートル(五一坪五七)

(ロ) 右同所二九番地の三 地上(未登記)白井茂太郎所有

ブロツク造亜鉛鋼板葺二階建居宅

建坪 一五〇、四七平方メートル(四五坪五二)

二階坪 七九、一四平方メートル(二三坪九四)

(ハ) 右同所二九番地の二 地上(未登記)宮本太吉所有

木造瓦葺二階建居宅

建坪 一五八、六四平方メートル(四七坪九九)

二階坪 一五八、六四平方メートル(四七坪九九)

(ニ) 右同所二九番地の四 地上(未登記)吉田繁次郎所有

木造トタン張平屋建バラツク

建坪 五二、八九平方メートル(一六坪)

(ホ) 右同所二九番地の七 地上 村井重雄所有

家屋番号 同所二九番地の七の一

木造瓦葺二階建居宅兼作業場

建坪  四五、九一平方メートル(一三坪八九)

二階坪 三四、五四平方メートル(一〇坪四六)

別紙

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例